プロダクトを作る時からデータ分析をする人は参加するべき。ではどんな人が良いのか?
プロダクトとデータ分析を再考する
前にデータサイエンティスト・データアナリストはプロダクトを作る時から参加した方がいいのか?を書いたが、これは考える順番が逆だった。先に分析に詳しい人が必要かどうか、必要ならどんなスキルがあると良いかを考えてその上で誰がやるかを考えるべきだった。
というわけで、あらためて「プロダクトを作る時からデータ分析をする人は参加するべきか」について考えてみよう。
結論
最初に結論を書いておくと、「データ分析の知見を持つ人は初期からいるべき、しかし高度な分析の知識よりも分析もマーケティングも幅広く知っており、かつプロダクトの責任者やエンジニアとの調整も必要、ということは現場の分析者よりもアナリティクスディレクターもしくはアナリティクスディレクターができそうな人を入れたほうが良い」である。
では順を追って話をしていこう。
プロダクトを作る時からデータ分析の知見を持つ人を参加させるメリット
プロダクトの初期の初期、それこそ「何を作るか」をこれから決めようとするときからデータ分析の知見を持つ人が参加しているといろいろとメリットがある。
- プロダクトを決めるための意思決定の質が上がるかもしれない
- 「このデータや、あんなデータを追加したらこういう分析ができる」が提案できる
- あきらかにおかしなデータや仕組みについて助言ができる
- データ分析をしながら改善していく文化を育てられるかもしれない
プロダクトを決めるための意思決定の質が上がるかもしれない
「何を作るか」を決める際の事前の競合調査や分析はもちろん「データ分析」の範疇であるが、あまり参加している形跡はない。プロダクトのオーナーやメンバーが自身で行っている、外部にマーケティングリサーチを依頼するなどはしているはずだが、そこにデータ分析の訓練を行っている人がいたほうがおなじデータを使ってもより冷静な分析ができる。
「このデータや、あんなデータを追加したらこういう分析ができる」が提案できる
これは細かい説明は必要ないだろう。もちろん教科書に書いてあるような一般論ではなく今作っているプロダクトの未来をよくするための具体的な提案であることは前提だ。
あきらかにおかしなデータや仕組みについて助言ができる
後でデータ使おうとしても「値にカンマが入っているCSV」になっていたり、「生ログを毎回ベンダーに依頼して時間と料金が毎回かかる」状況だったり、と最初に誰かが止めておかないとどうにもならなくなってしまうこともある。
データ分析をしながら改善していく文化を育てられるかもしれない
プロダクトの最初から計測と改善をする文化を作っておかないと後からやろうとしても難しいからだ。これは経営者やプロマネのバックアップがないと厳しい。
プロダクトを作る時からデータ分析の知見を持つ人を参加させるデメリットはあるか
企画に参加しなければ「あまりにもおかしなことをしていたら止める」ぐらいなので、それが邪魔だと言われたらどうしようもないが、そうでなければ特にデメリットは無いのではないか。
あえていうならこの役目ができそうな人がいない場合に探してこなければならないのでその手間とコストがかかるぐらいで、特に新しく立ち上げた会社の最初のプロダクトだと非常に限られたリソースから割り当てることになる。ただこれはデメリットというか配分の問題なのでちょっとちがうが。
データ分析の高度な技術を持つ専門家は必要か
次に考えるのは、データ分析の知見といってもどんな人が望ましいか。データ分析と言っても幅広いのでとりあえず「分析している人」だから高度な技術を持つ専門家でいいのでは、と発想しがちがだそれは間違いだ。
先ほどのメリットを実現するために必要な能力を考えてみると
- プロダクトの意思決定を高めようとする時必要になるのはリサーチ能力
- プロダクトの未来をよくするための具体的なデータについての提案はマーケティング
- データや仕組みについてエンジニアに説明する力
- データ分析をしながら改善していく文化はコミュニケーション
といったことになり、データサイエンティストや機械学習エンジニアといった高度な技術を持つ専門家が力を発揮するために必要なのはプロダクトの利用を通して得られるデータであるが、プロダクトを作る段階では存在しない。なのでその能力は役に立たない。
プロダクトの初期段階で参加すべきはどんな人か
ということは、全てでなくてもいいから上記の能力を持っている人ということになる。専門家でもできる人はいるだろうが、広い分野に関わっているデータアナリストやグロースハッカーあたりは向いていそうだ。もちろん経験を積んだアナリティクスディレクターが一番良いのであるが、確保するのが難しい。
あまりスキルが高くなくてもとにかく入れるべきか、いなければいっそのことデータ分析の知見などいらないと開き直る(つまりは今まで通り)のどちらが良いのかはよくわからない。ただ、システムの改修になるとコストが膨れ上がるので自社でできなければ最低限スポットでもいいのでデータエンジニアだけは確保した方がいいとは思う。
完璧な設計などできない
ところで、誤解して欲しくないのはこの時点で完璧な設計などできない、ということだ。プロダクトも実際に作ってみると最初に考えていたのとはまったく違うものができるのだから、データもプロダクトに合わせてその都度変えていくことになる。
なので設計に時間をかけすぎたりこだわりすぎてプロダクトの作成が滞ったりしたら本末転倒だし、後でやっぱりあれも必要だったとかいろいろ出てきても失敗だから責任を追及したりしてはいけない。
いつでもデータ分析者がいることは当たり前
何らかの意思決定があるならそこには必ずデータ分析がある。それはプロダクトの最初も同様。なので本来であればデータ分析者がいるべきかどうかは議論することでもないはずだが、実状はそうなっていない。
何度も書いているが、これは日本の歴史的経緯の積み重ねが生み出した「文化」であり、そう簡単に変わるわけもないが、だからといって何もしなければ負けるだけなのだ。
追記:最初に必要な人は「アナリティクスディレクター」
もしデータ分析担当者を雇おうとしたときにいきなり「データサイエンティストが流行っているからそういう人を連れてこよう」と発想して失敗したという話はよく聞く。データ分析を始める時に必要なのはデータサイエンティストのような専門家ではなく「アナリティクスディレクター」なのだ。
「アナリティクスディレクター」とは「データ分析プロセスのマネジメントを行い、様々な部署や人とのつなぎ役となる役割」であるで、つまりはデータ分析プロセスにおいて「分析」以外のことをする。例えば
- データ分析プロセスの各フェーズにおける問題に対処する
- 様々な部署や人との「つなぎ役」になる
- リソース配分を決める
- 適切な納期に適切な内容を届ける
といったことを行う。詳しくはリンク先を参照のこと。
「アナリティクスディレクター」とは「データ分析プロセスのマネジメントを行い、様々な部署や人とのつなぎ役となる役割」である