書評・感想『CIA流戦略情報読本 リアル=ワールド・インテリジェンスの世界』

ビジネスにおける情報活動を俯瞰できる隠れた名著

「CIA流なんとか」というタイトルから、定期的に出版される少々うさんくさい書籍を想像してこの本も避けてしまうとしたら、それはとてつもない損失だ。原書は『REAL・WORLD INTELLIGENCE』で著者も元CIA所属ということで興味を引くために邦訳の時につけたのだろうが、逆効果になっているのではないだろうか。

さて、本文は至って真面目な「ビジネスにおける戦略情報」について書かれている本だ。150ページに満たないが、「インテリジェンスとは何か」から始まり、データ分析プロセス(あるいはインテリジェンスサイクル)、組織と意思決定についてと、ビジネスにおけるデータ分析の活用について俯瞰されている。

文章も学術的な固さはなく非常に読みやすいので手元においておき、都度目を通すのがよいだろう。特に経営者・マネージャーはちまたでよく見かける「データ分析本」を10冊読むならばこの本をとにかく1度読んでみることをお勧めする。

1990年とすでに発売から30年近くたっているものの、内容は現在でも十分に通用するもので、日本人の書いた書籍はまだまだこのレベルには達していない。もっとも、『マーケティングインテリジェンス―リサーチから情報管理システム確立へ』を読むと解るように、その遅れは50年どころではない。まずその現実を認識しなければ問題になりようがないので、これらの書籍を紹介することは意義があるだろう。

読んで欲しい文章がたくさんあるのでどれにしようか迷ったが、今回はその中から2つ選んだ。

失敗するか成功するかの違いの一つは、どんなに多く知っているかではなくて、正しいことをどれだけ知っているかということにある。そして、知るべき正しいことを把握すること-これが特定の目的に到達するのを直接手助けする-は、世の中で最も扱いにくいうえに、最も理解されておらず、また最も軽視されている仕事の一つである。このような仕事に必要なものは、特定のテーマないし問題についての該博な専門知識ではなく、どんな要因が、その特定のテーマないし問題に影響を与えているのかを認識する能力なのである。この能力はそれ自体熟練、すなわちある特別な種類の専門知識である。一つの目的に到達するために知らなければならないことを、どのように決定すべきか知っている人なら、またほかの目的に達するために知るべきことも決定できるのである。

CIA流戦略情報読本 リアル=ワールド・インテリジェンスの世界 P54

まず前半では、データ分析、すなわちインテリジェンスの仕事が理解されず、軽視されるものであることが語られている。

データ分析が本質的に影の仕事である以上、この状況はどこであれさほど変わることはないだろうが、大きな違いはこのこと認識しているかということで、残念ながら日本の書籍ではこのようにデータ分析が本質的に目立たないものである、という視点が出てくることはほとんどない。

後半は、データ分析の仕事に必要な能力について。「どんな要因が、その特定のテーマないし問題に影響を与えているのかを認識する能力」という一文はその能力の本質をついていると考えられるが、こちらも日本人の書籍では分析の手法やエンジニアリング、一方でコミュニケーションの話は出てきても、それらの道具を使って何をするべきかは語られる機会が少ない。

この1つの文章だけでも、データ分析、情報活用に対する我々との意識の違いがわかる。繰り返しになるがこの書籍が発売されたのはもう30年も前である。

一人見つけ出し、彼または彼女をあなたのインテリジェンス部隊の責任者にせよ。政策決定者のあなたが知りたいことを何でも提供してくれることを保証する責任を彼または彼女に与えるとよい。あなたが信頼する大事な人間であることを明確にするとよい。あなたがこの人物を信頼することを政策決定参謀にもはっきりと知らせておくとよい。あなたとインテリジェンスの責任者との間には、誰もそして何事も介在させてはならない。

CIA流戦略情報読本 リアル=ワールド・インテリジェンスの世界 P129-130

この短い文にはデータ分析、すなわちインテリジェンスを有効に活用するための教訓がいくつも含まれている。

まずは「あなたが信頼する大事な人間であることを明確にするとよい」ということで、とりあえず分析担当者は任命はしておくけれども特に後ろ盾になるわけでもなく、ただいい情報を上げてくれればいいなと口をあけて待っているだけではうまくいかないということだ。守ることも信頼もしてくれない相手に対して、時には首をかけて都合の悪い情報を上げてくれることは期待するべきではない。

次に具体的な方法として「あなたがこの人物を信頼することを政策決定参謀にもはっきりと知らせておくとよい」ということだ。政策決定参謀=経営企画スタッフのことだが、それだけに留まらず幹部クラスには伝えておいた方がよいだろう。そうしなければ、情報分析担当者が社内の情報を集めようとしても集められず、機能しなくなる。

さらに「あなたとインテリジェンスの責任者との間には、誰もそして何事も介在させてはならない」と続く。つまり経営企画やマーケティングの所属にするのではなく経営者やプロジェクト責任者の直轄にすることを勧めている。必ず直接伝えることができるようにすること。なぜなら間に誰かが入れば、必ずその人の立場や思惑が絡んで情報がゆがむからだ。

■目次

せっかくなので目次も書いておこう。

  • 第1章 新しい経営革命が始まった
  • 第2章 インテリジェンスとは「組織化された情報」である
  • 第3章 インテリジェンスはどのように創造されるか
  • 第4章 インテリジェンス組織とはどのようなものか
  • 第5章 インテリジェンスと政策決定
  • 第6章 企業成功の秘訣

あらゆる経営者・マネージャーは手元に置きたい一冊

この書籍を読むかどうかで特に経営者・マネージャークラスのデータ分析を活用する力に格段の差がでるのではないだろうか。タイミング次第で数百円の時もあれば1万円近くになることもあるので、買えそうならば今すぐ買うべき一冊だ。リンク→CIA流戦略情報読本―リアル=ワールド・インテリジェンスの世界(アフィリエイトではないのでご安心を)。