書評・感想『競争優位の情報戦略 公開情報でここまで読めるライバルの経営戦略』

日本語で読める数少ない戦略的な情報・データ分析に関する良書

戦略的な情報・データ分析に関する書籍は非常に少ない上にほぼ翻訳本であるということは、やはり日本で戦略的な情報・データ分析の需要がいかに少ないかということである。そんな中、なかなかの良書である『競争優位の情報戦略 公開情報でここまで読めるライバルの経営戦略』を紹介する。

その前に、「競合分析・競合調査」と「コンペティティブ・インテリジェンス」について

最初に言葉について説明しておく。本来であれば、「競合分析・競合調査」と「コンペティティブ・インテリジェンス」は明確に区別されるべき言葉であるが、あえてこのブログでは本文の引用以外では基本的に「競合調査・競合分析」=「コンペティティブ・インテリジェンス」を使用する。

調査対象としてはまずはポーターのファイブフォース分析でいう「競争企業間の敵対関係」「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」「供給企業の交渉力」「買い手の交渉力」がある。他にも景気動向、消費者動向、法律改正・規制あるいは緩和といった政治状況、国際的に展開している企業であればその国の政治・経済・文化など、調べることはたくさんあり、これら全てを対象とするのが「コンペティティブ・インテリジェンス」である(参考:競合調査は「目の前にいる競合が今何をしているか」だけではない)。

「競合分析・競合調査」は「コンペティティブ・インテリジェンス」の一部でしかなく、同じように扱うのは本来では不適当であるのだが、コンペティティブ・インテリジェンスがあまりにも知られていないので分けると混乱しそうなので、あえてこのサイトはでは本文の引用以外では基本的に「競合調査・競合分析」=「コンペティティブ・インテリジェンス」としてしまうことにする。

内容の紹介

ここから本題。第一部では競合分析・競合調査の概要、第二部前半ではデータ分析プロセスの全体像であるインテリジェンスサイクルと各フェーズの詳細、後半は誰がどのようには競合分析・競合調査を利用しているか、第三部はその他のトピックという構成になっている。三部構成にはなっているが実質四部構成。詳細は本文にを読んでほしいがこれだけを見ても分かるように、全体象を描こうとするのは日本の書籍にはほとんどない。

日本のデータ分析軽視の一環として、競合分析・競合調査もかなり無視されている。近年のデータサイエンティストブームにより話題になっている統計学や機械学習による分析よりもさらにマイナーな存在だ。正確には名前だけはみんな知っているけれども内容が伴っていない。これは競合分析・競合調査が戦略的な情報・データ分析の色が濃いためだろうか、まったくといっていいほど存在感がない。

全般的に日本企業の情報収集をやたらにほめているのだが、どうやら外からだと違った様子に見えるらしい。戦略的判断を基にしているのではなく目の前にあるから集めてはいるがあまり使えておらず、成功したのは技術者などの現場の頑張りであって競合分析・競合調査などと呼べるものは存在していないというのが実際のところではないかと思うのだが。それは冒頭にも書いた通り、戦略的な情報・データ分析に関する書籍がほとんど発表されていないことが示している。

たしか別の書籍でも日本の総合商社について「情報・データ収集は非常に活発だが、あまり使われていない」と評価されていた。出展が見当たらなかったのでわかったら追記する。

そういわれてみれば、現在でも「とりあえずデータはたくさん集めたがどうしたらいいかわからない」という話はよくある。集めて安心してしまうのか、集めるためのツールベンダーに煽られているのかは知らないが、理由はどうあれうまく使えないデータのために金と時間を無駄にしているのは以前から変わらないらしい。

発売時期

『競争優位の情報戦略 公開情報でここまで読めるライバルの経営戦略』は1998年の発売。原書は『Competitive Intelligence: How To Gather Analyze And Use Information To Move Your Business To The Top』で1996年の発売。洋書では「Competitive Intelligence」で検索すれば多くの書籍があるがほとんど邦訳されない中で、原書の発売からさほど間をおかずに翻訳本が発売されているのは驚きである。タイトルが某有名書籍に似ているのはわざとなのかどうかは知らない。

なお、発売から20年を経た現在に至っても日本で同じレベルの書籍の存在は知らない。もしあったら教えて欲しい。

著者について

著者のラリー・カハナーはジャーナリスト兼作家とのことで、特に情報が専門というわけではなようだ。たしかに分析の詳細ではなく全体像やマネジメントの記述が中心になっている。それゆえか、現場よりもより広い視点から見た話が中心だ。

■目次

目次はそのまま引用する。読む際は「コンペティティブ・インテリジェンス」=「競合調査・競合分析」とすればよい。

第一部 コンペティティブ・インテリジェンスとは

  • ・第一章 コンペティティブ・インテリジェンスの台頭
  • ・第二章 コンペティティブ・インテリジェンスが企業にできること=インフォメーション対インテリジェンス
  • ・第三章 なぜほとんどの管理職は、いまだにインフォメーション時代にこだわるのか

第二部 現実世界のコンペティティブ・インテリジェンス

  • ・第四章 インテリジェンス・サイクル
  • ・第五章 計画と方向づけ
  • ・第六章 収集
  • ・第七章 分析
  • ・第八章 伝達
  • ・第九章 合併と買収
  • ・第十章 ベンチマーキングとコンペティティブ・インテリジェンス
  • ・第十一章 日本人はいかにしてコンペティティブ・インテリジェンスを実行しているか
  • ・第十二章 他国のコンペティティブ・インテリジェンス
  • ・第十三章 コンペティティブ・インテリジェンス・システムの構築

第三部 問題、機会、そして将来

  • ・第十四章 コンペティティブ・インテリジェンスの費用を正当化する
  • ・第十五章 コンペティティブ・インテリジェンスを欧州連合で利用する
  • ・第十六章 倫理
  • ・第十七章 新しい門番たち
  • ・第十八章 なぜアメリカ政府はコンペティティブ・インテリジェンスにかかわる必要があるか
  • ・第十九章 次の世代のコンペティティブ・インテリジェンス

この本が気に入ったら『マーケティングインテリジェンス―リサーチから情報管理システム確立へ』もお勧めしたい。50年前に発売されたとは到底思えない、日本の遅れをまざまざと感じさせる良書である。