日本のデータ分析における最大のボトルネックは「採用する企業側の致命的なデータ分析リテラシーの低さ」である
データ分析人材がうまく採用できないのは「データ分析リテラシー」の低さが大きな原因だ
もちろん社内にデータ分析の文化を作るのに一番良いのは「社長が自らの意思決定にデータ分析を活用すること」なのだけど、いままでその文化が無かった個人にいきなりやれというのは難しい。
なので次善の策としては「データ分析者が社内で実績を上げて広めていく」ということになるが、ここでボトルネックになるのが「採用」だ。
良い人を採用できなければいくら「これからはデータ分析が重要だ」と大合唱したところで空回りするだけだし、ここに「放置」が加わればうまくいはずもなく、何が起きるかといえばデータ分析を初めてはみるものの機能せず、2・3年もするとチームは解散、高賃金で雇った人には逃げられ、「データ分析は使えない」という間違えた経験とトラウマだけが残る。あとは今まで通り、勘と経験と長時間労働で生産性の低さをカバーする。
というのが、すでに起きている話であり、これからさらにあちこちで聞こえることになるだろう話だ。そこで、企業側の問題点を明らかにすることで、いかに「データ分析リテラシー」の低さが問題になっているかを投げかけたい。
データ分析人材採用における企業側の問題点
さて、では現在のデータ分析者の採用における問題点はどのようなことがあるだろうか。見聞きした範囲だけでも、このようなことが挙げられる。
- 求人情報の募集要項がめちゃくちゃ
- とりあえず「データサイエンティスト」を雇う
- 予算もかけられないからとりあえず安く雇える人を入れる
- 現場の作業者としか見ない
- 判断基準が見えやすい技術に偏る
- 人材コンサルや人材派遣業者の言いなり
- スキルに給料が見合っていない
これだけ読むと酷く見えるが、実際は思うよりもっとひどい。具体的に詳しく見ていこう。
求人情報の募集要項がめちゃくちゃ
一番まずいのは求人情報がめちゃくちゃなことで、詳しくはデータ分析関連の求人情報の募集要項がめちゃくちゃなので最低限これだけは書いてほしいことに書いた。
主旨としては「データ分析という名前ですべてをひっくるめないで、何をどれぐらい求めているかを区別してほしい」ということなのだが、この最低限のことが出来ていない企業が非常に多い。
どんな人を取るべきか判断できないので、とりあえず「データサイエンティスト」を雇う
データ分析者というのは今までほとんどいなかったので多少同情の余地がなくもないが、だからといって「データ分析が重要らしいからやってみよう、データサイエンティストが流行っているからそういう人を雇っておけばいいんじゃないか」と専門知識を持っている人を雇って失敗したという話はあちこちで聞く。
最初はデータも揃っていない、インフラも無ければ作らなければいけないし、そもそもデータ分析の文化がないから社内に説明したり啓蒙したりしなければならない。が、それはデータ「分析」の専門家の範疇ではない。データサイエンティスト・データアナリストの仕事はあくまでも「分析すること」であり、それ以外は「アナリティクスディレクター」の役割である。
分析者側が「データ分析」をするつもりで入社したら他のことも要求されたというミスマッチについては入社前にきちんと説明をしていなかった場合を除きデータ分析者側に責任を持たせるのは筋違いだ。
どんな人を取るべきか判断できないし予算もかけられないからとりあえず安く雇える人を入れる
逆にうまく行くかどうかわからないし予算もかけられないからと、スモールスタートとばかりにオペレーターレベルの人だけしか使わないというケースもある。差し当たっての手足にはなるが、高いスキルがあるわけでもないので生産性が上がらないし組織はスケールしない。たまたまいい人が入るのを期待するのは経営ではない。
400万円で雇える3人より800万円出さないと雇えない人1人の方が生産性が高い場合があるのは特にITでは顕著であるが、企業の大小、社長の老若男女問わず前者を取りたがるのは、長時間働けば成果につながる農耕民族としての感覚が未だに抜けていないからなのだろうか。
「データ分析」は現場のやることだと勘違いしているから作業者としか見ない
データ分析は現場の問題解決のための戦術的データ分析だけでなく、経営者のための戦略的なデータ分析まであらゆる部署・役割・人にとって必要なものだ。しかし現場の作業者レベルでは提言したところで経営者どころかマネージャークラスにすら相手にされない。
また、何の権限も無いと起きる弊害がある。データを収集するのにエンジニアの部署に依頼しても相手にされなかったり、分析結果を営業が自分が気に食わないというだけで却下されたときに誰にも訴えられずに孤立する。
この問題にはデーや分析組織を独立させて一定の権限を会社が持たせることが必要であるが、その議論をする前にデータサイエンティスト・データアナリストは「とりあえずデータがあるからうまいことしてくれる人」ではないことを理解していない。
判断基準が見えやすい技術に偏る
「データ分析」と言ってもその業務範囲は様々であり、募集要項を見るとそれはそれは範囲が広いのだが、技術面、特に「プログラミングで何かやってみた」という話への食いつきが良いらしい。
企業側にデータ分析の実務経験者がいない場合はこれが顕著になるのは他に判断できる基準がないからであろうが、その唯一の判断基準であるプログラミングをきちんと判断できているかは心もとない。
もちろん優秀な人で情報発信をしている人もおり、「プログラミングで何かやってみた」が悪いということは決してないが、ブログなどで書かれる部分だけに判断基準を置きすぎていることが問題だ。
これは、監督が素人でパスやドリブル・ディフェンスをまったく評価せずダンクシュートやフリーキックだけを見て試合に出す人を決めていたら何がおきるか想像してみると良い。プログラミングのみを見ることで起きるのはまさにこのような状況だ。
そんな状況なので履歴書やコードに書けない話は評価されず、結局アピールしやすいことに注目がいくのは当然だろう。
もちろん明確にプログラミングスキルを求めているなら話は別だが、最初に書いたようにどんな人を取ればよいのかをわかっていない企業がほとんどである。
人材コンサルや人材派遣業者の言いなり
ちょっと学習しただけの人を「〇〇エンジニア」と売り込むのは別にデータ分析に限らず以前から行われている話だが、その反省なしにデータサイエンティストやAIエンジニアで同じことを繰り返していることが問題だ。
主体性もなく判断もできないから丸投げしているのだろうが、能力でなく営業力勝負になっており、直接応募した実務ができる600万円の人は取らないが、紹介会社を通した実務未経験者を400万円(+手数料)で複数人取って「いい人が採用できた」などと自己満足している。
人事が現場を無視して勝手に話を勧めた結果、「最低限のこともできないエンジニアが入ってきた」とか「自社で宣伝用に言っているだけで大して取り組んでいないことをやりたい人が入ってきた」なんて嘆きも聞こえてくる。
企業側が求めていてそれが売れるのだから、提供するコンサルに文句を言うのはおかしい。やはり、これは企業側の問題なのだ。
スキルが給料に見合っていない
あれこれ要求するわりに、その中身をわかっていないからスキルに対して非常に低い金額を提示する企業は後を絶たない。時々笑いというか嘲笑のネタになっているが、あまりにそのスキルを身に着けるために費やした時間に見合っていない。
そんな調子なのでスキルがある人を採用できるわけもなく、高い報酬を出す外資系企業に軒並み持っていかれる。それで「人が取れない」と嘆いているのだから救いようがない。
データサイエンティスト・データアナリストのキャリアに及ぼす影響
データサイエンティスト・データアナリストとして今は良い企業にいるから自分には関係ないと思っているなら大間違いで、長期的に見て世の中の99.99%の企業の「データ分析リテラシー」の低さは、データサイエンティスト・データアナリストにとっても非常に悪い影響を及ぼす。
転職しようにも過去に失敗した企業は二の足を踏み、面白そうな企業で挑戦しようにもデータ分析スキルはきちんと評価されないので採用されないかされても安く買いたたかれる。そして企業側にはその自覚がない。採用がうまくいかず機能しなければ組織は拡大せず、社内での地位は上がらず、出世する機会も少なくなる。
そんな業界に人が集まるわけもなく、人が集まらなければデータ分析業界が衰退するし、その影響はビジネス全体へ波及する。そしてそれはすでに起きている。
それが大問題であるということをどう知らしめるかが大問題だ
吉田松陰は「天下の大患は、其の大患たる所以を知らざるに在り(世の中の大問題は、それが大問題であるという理由を知らないことだ)」と言ったが、データ分析に関しては「採用する企業側の致命的なデータ分析リテラシーの低さ」が大患であろう。もちろんその中でも最重要なのは経営者のリテラシーである。
このリテラシーの低さがいかに大問題であるかを世の中にどう知らしめるかという大問題はすぐには解決する話ではない。とはいえ、たとえこのちっぽけなブログではできることは限られるとしても、今出来ることをやるしかないのだ。
1/24 追記
どんな人を採用するべきか、という問題に対する自分なりの回答の1つとして、組織としてデータ分析を始める時に必要なのはデータサイエンティストのような専門家ではなく「アナリティクスディレクター」であるを書いた。
特に「データ分析の専門家」を雇って失敗した経験のある人に読んで欲しい。最初に必要なのは専門家ではなく、「データ分析プロセスを動かし様々な人々とコミュニケーションを取ることができる人」だ。