データの仕事のアウトプット「データ」「分析」「提案」は3種類で、「分析」が求められることはほとんどない
データの仕事もいろいろありまして
現状データ分析者(データサイエンティスト・データアナリスト・リサーチャーなどの)としてしてくくられている職種に求められているのは「分析」だけでなく実際には「データ」「分析」「提案」がある。これらの間には明確な違いがあって、それを依頼する側される側で認識を合わせておかないと大変なことになると最近特に思うので、その違いについて整理する。
「データ」「分析」「提案」とは
まずこの3つの違いについて一覧にしてみよう。重要なのは提供物と責任の違いだ。
種類 | 提供物 | 責任 | 例 |
データ | 分析・洞察を経ていない情報 | 正確なデータを迅速に渡すこと | 日別の感染者数 |
分析 | 分析と洞察を経て作った情報 | 中立・客観的な分析 | 感染者数の推移や業績への影響への予測 |
提案 | 具体的な施策 | 実効性を伴ったアイデアを出すこと | 「緊急事態宣言を出すべき」という提案 |
名前に違和感があれば呼び方は自由だが、この記事では「データ」「分析」「提案」としておく。それではこの3つについて詳しく考えてみよう。
「データ」
「データ」とはあるいはインフォメーションでも良いが、つまりは分析・洞察を経ていない情報のこと。
担当者に求められるのは依頼に基づいて正確なデータをできる限り迅速に渡すことであり、そのためにはSQLといった技術が必要になるだけでなく、依頼を的確に受けるためのヒアリング能力やデータを事前に収集・整備をしておくための仕組みの構築も含まれるだろう。
意思決定する人が自分で分析するために必要だがデータベースが扱えないためにエンジニアなどに依頼することが多く、いわば兵站の役割を成しているのであるが、雑用扱いされることも多い。
コロナウイルスの日別の感染者数はまさにこの「データ」だ。各都道府県で形式も何もかも違うデータが個別に出てくるのはまさに整備されていないデータで、全国レベルのデータが必要な人にとっては悲惨としか言いようがない。
「分析」
意思決定のために分析と洞察を経て作った情報(=インテリジェンス)。特定の問題の「こういったことが知りたい」に対して分析者が解答する。
役割は分析と洞察、つまり今何が起きているかを突き止めたりこれから何が起きるのか予測することであり、完璧に当たることは無くとも大きく外せば責任を問われなければならない。最も重要なのはいかに主観を排除して客観的な分析ができるかだろう。
政策決定者からの「どのような施策をするとコロナウイルス感染者数がどう変化するか」、経営者からの「自粛による業績への影響」などが挙げられる。求められるのは分析であり「だから次にこうするべき」を言うことは求められない。
分析者というとこの「分析」に責任がある人と連想しそうだが、実態としてはこの役割を担っている人はほぼいないしそう考えている人も少なそうだ。
「提案」
「次にこうするべき」と具体的な施策を提案する。提案した施策に責任があるので、施策が実行されてうまく行きさえすれば分析については実のところあっても無くても問題にならない。
例えば専門家がコロナウイルスの日別の感染者数の今後の予測に基づいて「緊急事態宣言を出すべき」だと提案・提言するようなこと。
一方で求められてもいないのに限られたデータの中だけで考えた実効性を伴わない提案が世の中には多数あるが、数値だけを見て議論したりするとわかった気になってしまうのは危険なことも多々ある。
ちなみにこの後実際に施策を動かす役割もあるわけだが、それはもはや分析ですらないので今回の話の範囲外。
データ分析者の実態は「データ」か「提案」を提供する人で「分析」が求められることは少ない
このように分けてみると、データ分析者と呼ばれている/名乗っている人の実際の役割は「分析」を提供することではないということがわかるだろう。
提供しているのは「データ」または「提案」であり、「分析」は無いか付随しているだけだ。
コンサルタントやマーケターなどに多い印象があるが「データ」を求めるのは自分で分析して自分で決めたい人。もちろんデータ分析とはビジネスに限らず誰でもやっていることなのだが、どんな問題や状況であっても外部の知恵を借りずに自分(達)だけでやりたがると問題が起きる。
一方で自主性が無かったり権限移譲せずに決める(選択する)ことだけをしたいからと提案を求める場合も多く、大抵の場合は丸投げだ。「このデータで何かいいことできないか」とか「売上を上げる方法」などよく聞く話だ。名前は分析者でもこの役割を求められていたり自ら積極的に行ったりする人は多い。
「分析」不在は日本の伝統芸能
この両方が合わさっているのが日本企業で(というよりは、日本人が集まるとそうなるらしい)起きていることであり、今後も続いていくだろう。
いろいろな原因はあると思うが、その1つに「分析」の存在感がまったくない、というよりはこの役割の存在がほとんど知られていないことが挙げられる。
存在感の無いリーダー、声が大きな作戦参謀、そして存在感の無い情報参謀の組み合わせが極端になったのが旧日本軍であり、その結果どうなったのかはご存知の通り。
市場価値でいえば「提案 > データ >>>> 分析」
情報リテラシーが低ければ低いほど実効性が伴わなくてもそれっぽいことを言っているだけの人の方が稼げたりする一方で、決定を支える地味な立場の評価は下がる。
これは提案が難しく分析が簡単だから、と言うことではないし、現在の日本ほど極端ではないにしても自身たっぷりに「こうするのが正しい」と言い切れる人の方が有能に見えるというのは古今東西変わるまい。
これは現状としてそうなっている、という話だ。もしかしたらこのままでもよいのかもしれないが、自分は今のところそのままで良いとは思っていない。
情報や兵站を評価するべきだ、と評価される側の中だけで言っても何も変わらないのでより外への発信は意識していきたいと思うが、間違えていたら元も子もないのでそういう時は指摘いただければ幸いだ。
認識合わせが必要なのでは
以前にデータ分析関連の求人情報の募集要項がめちゃくちゃなので最低限これだけは書いてほしいことというのも書いたのだが、物足りなさを感じていた。
そこで思い立ったのが、この役割の違いや責任の違いが認識されていないことがそもそも根本にあるのではないだろうか、ということだ。
なので依頼する側が「提案」もしてくることを当たり前と考えている時に「データ」を出してなんて使えない奴だ、となったり「データ」を求めているのに「提案」までして余計なお世話だ、みたいなことになる。
また「分析」と「提案」の間には大きな差があるにも関わらず、あまりにも役割がぼやけているためにサッカーで言うと「攻撃的ゴールキーパー」のような役割がよくわからない名前も登場しているのもそれが大きな原因だろう。
なのでスキルの違いとか、職名との対応とか他にもいろいろあるが、まず最初にどういう役割があるのかということをまずまとめてみよう、ということでこの記事になった。